「ホロコースト肯定派の中では、これは『ユダヤ人を毒ガスで殺す』という意味で使われてたとされている。
小説『シンドラーのリスト』でも出てくる単語だ」
参考資料:シンドラーのリスト P.36
こうして、オスカー・シンドラーの物語が、野蛮なナチスや、親衛隊員の快楽主義や、虐待されて痩せ細った女や、そしてどういうものか“心の気高い娼婦”というのと同じくらいめずらしい“いいドイツ人”というイメージとともに、危険を孕んで始まる。一方で、オスカーは組織の全貌を――官僚式のお体裁の蔭に隠れた狂信者の相貌を知ることを自分の務めのようにしてきた。ということは、たいていの人間が敢えて知ろうともしないうちから、ナチスのいう特別処置(ゾンダーハントルンク)とは何を意味するかを知っていた、ということだ。それが意味するのは、ベルジェクや、ゾビボルや、トレブリンカの収容所に、そしてクラクフの西にあるあの広大な収容所に築かれている青黒い屍体のピラミッドなのだ。この収容所は、ポーランド人にはオシヴィエンツィム・ブジェンジンカという名で知られているが、やがてそのドイツ名が世界に知られることになる。すなわち、アウシュヴィッツ・ビルケナウである。
「この単語のソースはビルケナウの焼却棟IIの書簡にある。
焼却棟IIの電力供給に関する1943年1月29日のメモ文書は、次のように述べている」
焼却棟IIの電力供給に関する1943年1月29日のメモ文書
[1943年2月15日からの焼却棟の]作動の開始は、既存の機関の限定的な使用のみにもとづくことができる(一方、特別措置との同時の焼却は可能である)。焼却棟への[電力]供給線が、それを完全に稼動させるには弱すぎるからである。」
("Diese Inbetriebsetzung kann sich jedoch nur auf beschränkten Gebrauch der vorhandenen Maschinen erstrecken (wobei eine Verbrennung mit gleichzeitiger Sonderbehandlung möglich gemacht wird), da die zum Krematorium führende Zuleitung für dessen Leistungsverbrauch zu schwach ist").(1)
「さて、特別措置とは何のことだろうか?
この文章では『既存の機関の限定的な使用』が『特別措置との同時の焼却』を許容しているということを述べている。
前述の文章の意味を理解するには、この文章を歴史的文脈から捉えなくてはならない。
1943年1月29日、アウシュヴィッツ建設局に雇われていたトップフ社の技師クルト・プリュファーは、ビルケナウの4つの焼却棟の建設現場を視察し、『試験報告』を書いて、焼却棟IIについて次のように記している」
「5つの3炉室焼却炉が出来上がっており、現在、温められて乾燥されている。地下の死体安置室のための吸排気換気システムの搬入は、鉄道封鎖のために遅れている。だから、その設置は今から10日以降のことであろう。だから、焼却棟IIを43年2月15日に稼動させ始めることは、確実に可能である。」
("Die 5 Stuck Dreimuffel-Einaschenungsofen sind fertig und werden z.Zt. trockengeheizt. Die Anlieferung der Be- und Entluftungsanlage für die Leichenkeller verzogerte sich im Folge der Waggonsperre, sodass der Einbau voraussichtlich erst in 10 Tagen erfolgen kann.
Somit ist die inbetriebnahme des Krematoriums II bestimmt am 15.2.43 möglich.")(3)
「この報告に電気技師で中央建設局技術部長のSS下級隊長スヴォボダはのメモ文書は次のように述べている」
(1)焼却棟を稼動させることを延期するというプリュファーの提案時期(1943年2月15日)は、「既存の機関の限定的な使用」ということにおいてのみ尊重されることができる。
(2)これは、「特別措置との同時の焼却」も保証するであろう。
「既存の機関とは一体何なのか?
この問題に関する回答は、二つの重要な文書のなかに発見される。
焼却棟IIに関する1943年1月29日のキルシュネクSS少尉のメモ文書は次のように述べている。
キルシュネクSS少尉はアウシュヴィッツ中央収容所に責任を負う武装SS警察アウシュヴィッツ建設局主任技師だった」
「圧縮送風機の焼却棟のモーター用の電気接続部分は、移動・再配置されている。煙突のところにある3つの大きな吸気設備が設置され、稼動準備に入っている。ここでも、モーター用の電気接続部分が再配置されている。死体搬送エレベーター(巻き上げ式)が臨時に設置されている。鉄道封鎖が解除されたのはほんの数日前だったので、地下の死体安置室用の吸排気換気装置は到着していない。貨車は動き始めているので、これらの資材の到着を毎日待っている。設置は約10日間のあいだにすすめることができる。」
("Die elektrischen Anschlüsse für die zum Ofen gehörenden Motore für die Druckluftgebläse werden z.Zt. verlegt. Die 3 grossen Saugzuganlagen, an den Schornsteinen befindlich, sind eingebaut und betriebsfertig erstellt. Auch hier werden zur Zeit die elektrischen Anschlüsse für die Motoren verlegt. Der Leichenaufzug wird z.Zt. provisorisch eingebaut (als Plateauaufzug). Die Be- und Entlüftungsanlage für die Leichenkeller ist infolge der Waggonsperre, die vor einigen Tagen erst aufgehoben wurde, noch nicht eingetroffen, die Waggons rollen und wird täglich mit dem Eintreffen dieser Materialen gerechnet.
Der Einbau kann in ca. 10 Tagen erfolgen..")(4)
「またトップフ社の設置者(取り付け工)ハインリヒ・メッシングは、1943年1月に、自分が焼却棟IIで行なった取り付け作業についてメモを残している。
これは、キルシュネク報告を裏打ちしている」
(04/05.01:旅行
05/10.01:焼却棟に吸気設備を設置
11/17.01:焼却棟I(II)に3つの吸気設備を輸送・設置
18/24.01:戦争捕虜収容所焼却棟I(焼却棟II)に吸気設備を設置
25/31/.01:吸気・排気設備。5つの3炉室炉用の5つの副次的送風機が設置。資材の輸送
01/07.02:5つの3炉室炉用の副次的送風機が設置」
("04/05.01: Reise.
05/10.01: Montagen d. Saugzug-Anlagen in Krematorium.
11/17.01: Transport und Montage der 3 Saugzug-Anlagen im Krematorium I. (II)
18/24.01: Saugzug-Anlagen im Krematorium I. K.G.L. montiert. (Kr II)
25/31.01: Saugzug u. Be u. Entlüftungsanlagen. 5 Stück Sekundargebläse für die 5 Dreimuffelöfen montiert. Transport des Materials.
01/07.02 Sekundargebläse für die fünf Dreimuffelöfen montiert.")(5)
「焼却棟IIでは死体安置室は地下にあるが、焼却炉は地上にあるので、エレベーターが必要だった。
しかし臨時エレベーターはまだ設置されていなかった。
それは1943年1月26日に、中央建設局がHäftlingsschlosserei社に発注していたがその製造は3月13日に中止された。
結局、『特別措置』が出てくる書簡の1943年1月29日時点の『既存の機関』とは次のようなものであった」
- 既存の機関
- 送風機625D(7)――380voltの15CVの三極エンジン――を備えた、煙突の3つの吸排気設備
- 送風機290M――380voltの1420 rpm3、CVの三極エンジン――を備えた、炉のための5つの圧縮空気装置
- 予定されてはいたがまだ設置されていない機関
- B室(死体安置室1)用の吸排気設備(380volt、2CVの2つの三極エンジン)
- 炉室用のEntlueftungsanlage(380volt、3.5CVの1つの三極エンジン)
- 洗浄室用のEntlueftungsanlage(380volt、1CVの1つの三極エンジン)
- L室(死体安置室2)用のEntlueftungsanlage(380volt、5.5CVの1つの三極エンジン)(10)
「既存の機関は炉室用の送風機と煙突の吸気装置ということになる。
炉と煙突の送風機を使用すると、『特別措置との同時の焼却』を保証することになるのだから、特別措置とはガス殺ではなく焼却に関することなのだ。
少なくとも特別措置がガス殺と関係ない証拠に、1943年1月29日の時点では焼却棟IIに換気装置は存在しなかったという点が上げられる。
ガス室とされる部屋に換気装置の設置が指示されたのは1943年2月22日だ。
換気装置が設置される前から『特別措置』は行われていたのだから少なくともガス殺ではない。
では『特別措置』とは一体何なのだろうか?
1943年1月13日、収容所建設の監督の特別事務局長カール・ビショフSS大尉は、アウシュヴィッツのドイツ装備会社に『建築室用の大工仕事の実行』について書簡を送っている。
このなかで、ビショフは、『収容所の焼却棟I用の』ドアの入手が遅れていることに不満を述べている。そのなかで、彼は次のように述べている」
「とくに、42年10月26日に発注した強制収容所の焼却棟I用のドアBftgb.Nr.17010/42/Ky/Paは特別処置の実行のためにきわめて必要である。」
("So sind vor allem die mit Auftragsschreiben vom 26.10.42 Bftgb. Nr. 17010/42/Ky/Pa bestellten Türen für das Krematorium I im KGL, welches zur Durchführung der Sondermassnahmen dringend benötigt wird.")(12)」
「確認しておくが、この書簡の書かれた1943年1月13日の時点ではまだ換気装置は設置されてない。
そんな状況でドアが必要な理由は一つしかない。
それは死体安置室に置かれた死体が病原菌を巻き散らさないようにフタをすることだ。
他の資料を見てみよう。
SS経済管理本部がアウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所当局に送った1942年8月26日の電報には、『特別措置用の資材(Material für Sonderbeh[andlung]』=チクロンBを積載したトラックをアウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所から、チクロンBの供給工場のあったデッサウに派遣する許可電報がある。
換気装置がない状況でチクロンBが『特別措置』のために必要らしい。
換気装置がない状況でドアが『特別措置』のために必要らしい。
ここまで来れば『特別措置』が何なのかわかるだろう。
つまり、『特別措置』とは『防疫処置』のことなのだ。
そう考えれば、死体の焼却が同時に防疫処置を行うことなるのだから、焼却棟IIの電力供給に関する1943年1月29日のメモ文書にはまったく矛盾がなくなる。
死体を焼却することで死体が病原菌を撒き散らすことはなくなるのだからな。
これが特別措置の意味だ。
今回のソースはすべてマットーニョ論文から来ている。膨大な資料を提供してくれたこのイタリア人に感謝するとともに、もっと初心者にもわかるように書けという述べておこう。
本気で世論に訴えたいと考えているのであれば、読者の対象は学校の社会科の時間に漠然とホロコーストについて習っただけの素人を想定して書くべきだ」